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ゲノミクス-将来の医療

[2024.04.07]

ゲノミクスを用いた癌の診断は米国で商品化されている。大腸がん検診は本邦では便潜血法が用いられているが、既に米国では便からのDNA検査を用いて大腸内の変異を検出する非侵襲的DNAスクリーニング(A®、B社)は大腸がん検診に広く用いられ、大腸癌の早期発見に貢献している。「リキッドバイオプシー(血液生検)」と呼ばれる簡単な採血検査で数種類の癌を発見できる検査技術も期待され、B社は前立腺がん、乳がん、大腸癌の遺伝子検査の「C®」を提供し、米国D社の血液検査E®が、50種類以上の癌を偽陽性率1%未満で検出し、この検査でスクリーニングを受けた患者さんの癌による死亡率は40%近く低下した。まだFDAでは認可されていないが、ニューヨーク州保健局はE®を癌検査方法として承認している。このような血液検査で行えるがん検診が日本でも早期に行われるようになることが望まれる。

2000年代に特定の遺伝子の異常を標的にした分子標的薬が使用されるようになり、さらに主にがん組織を用いて多数の遺伝子変異を同時に調べる遺伝子パネル検査が開発され、遺伝子異常に合わせた個別化治療が試みられている。現在、薬剤到達率が10%程度であり、治療薬の開発が待たれる。ゲノム医療ではないが、本庶佑先生により免疫チェックポイント阻害剤という画期的な薬が開発された。癌細胞は人間の免疫細胞を抑制する働きがあるが、その抑制する働きを抑えることで、免疫細胞を機能させ、癌細胞と戦わせる治療であるが、実際多くの進行癌患者が恩恵を受けている。

ゲノム編集は「生命の設計図」とも言われる全遺伝情報(ゲノム)を自在に変えられる技術でゲノム編集「クリスパー・キャス9」はジェニファー・ダウドナ博士らによって2012年に発表された。クリスパー・キャス9は細胞の核の中に含まれるDNAを切断する機能を持つ人工酵素「キャス9」でDNAを切断し、切断した部分の遺伝子の働きを失わせたり、切除部に別の遺伝子情報を挿入することで遺伝子を改変することができる。その技術により近い将来、すべての遺伝子病、がん、アルツハイマー病、何千もの遺伝性疾患を防ぎ、治すことが期待されている。がん免疫療法においてゲノム編集で遺伝子を書き換えた免疫細胞を体内に戻して治療効果を高める研究があり、老化予防の治療薬として遺伝子療法が試みられているがこの分野でも大きな進展をもたらすようだ。

DNAのゲノムを解読するコストは1,000億円以上から10万円余りと10万分の1となり、解読するスピードは13年から5時間と2万分の1に短縮された。10年以内にすべての医療記録にDNA解析データが加わると専門家は予測している。遺伝子研究とデータ解析の進歩を土台に、今後は癌の治療は腫瘍の解析結果を基づいて、個々の患者にあったゲノム編集も含めた治療から選ぶようになるとされ、癌以外でも個々の患者のDNAや生活習慣に基づき、個人にカスタマイズして予防、診断、治療を行う非オンコロジー精密医療が行われるようになる。

今後、ゲノミクスにより変革した医療を提供できるものがあれば提供してみたいと思っている。

 

倉敷医師会だより 令和5年12月/令和6年1月合併号 巻頭言より一部抜粋

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