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コロナ禍における希望―コロナワクチン、治療薬の開発、デジタル革命

[2024.04.07]

スペイン風邪がパンデミックを起こした感染症として歴史的に振り返られるが、現在我々は同じくパンデミックを起こした新型コロナウイルス感染症によるコロナ禍にある。令和元年12月に中国武漢で始まった新型コロナウイルス感染症の流行は世界的に流行し、感染者はすでに世界で1億3026万人、死者は283万人となった。本邦において経済への犠牲を伴う緊急事態宣言の発令による人の行動制限により感染を一定レベル抑制することができるが、完全には鎮圧できず、解除により感染が拡大するという繰り返しとなっている。コロナ禍において心理的ストレスが悪化することが言われている。自粛生活からの解除の喜びと再流行への不安により気分がアップダウンしやすく、外出時には常に感染に警戒し緊張続きで疲労しやすく、長引く在宅生活による意欲低下、無気力の常態化、経済ダメージによる収入減少、長引く感染への不安、ワクチン接種の出遅れ感への苛立ちから自律神経による不調がきたしやすい。

新型コロナウイルスの流行の封じ込めにはワクチンと治療薬の両方が必要とされる。新型コロナワクチンが海外で接種が進み、日本で接種が始まったファイザー社のワクチンの感染予防効果は95%で、イスラエルでの追跡調査で99%死亡率が抑制され、接種半年後にも感染抑制効果が持続し、変異株に対しても有効であったと報告されている。海外において接種した地域では感染の抑制、死亡者の減少のみならず社会経済活動の再開、雇用の復調が起こっており、感染予防のみならず、経済活動の再開の効果も期待できる魔法(ないしカンフル剤)のような効果が期待される。ワクチン接種証明書、パスポートを発行する国もあり、ビジネスや観光などの人の往来が先行している。治療薬として米メルクやスイスのノバルティスが開発競争をリードし、開発も最終段階で年内にも登場する見込みとなっている。メルク社の治療薬候補は重症患者の回復を助け、呼吸不全と死亡のリスクを50%減少させる可能性があるものと、陰性になるまでの期間を短縮させる新薬候補の2種類で、日本でも3月に治験を始めている。抗ウイルス薬「レムデシビル」や米イーライ・リリーや米リジェネロンが開発するコロナ特化型の新薬などと伴に米国が実用化を目指す新薬候補に選ばれた。こういった治療薬の開発やワクチン接種により「渦」の中から抜ける出口の希望の光が見えた気がする。

一方、我々はバイデン米国大統領が述べたように「第4次産業革命」のただ中にいる。第4次産業革命とは農業革命の第一次産業革命、工業革命の第二次産業革命、情報革命の第三次革命に次ぐ、モノのインターネット「IoT (Internet to things)」、「人工知能(AI)」、「ビッグデータ」、「ロボティクス」などのデジタルフォーメション(以下、DX)と呼ばれるデジタル技術が進むことにより、自動運転、仮想現実(VR)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、次世代移動通信5G、ブロックチェーンなどの技術を活用した製品の開発が行われその活用が進むことでおこる社会全体の変革のこととある。インターネットの普及により外出しなくてもネットでの買い物は普及しているが、自動運転、空飛ぶ自動車、無人タクシーなど漫画の様な世界も近い将来現実となりつつある。政府の科学技術政策の方針を示す「第6期科学技術・イノベーション基本計画」が3月末に閣議決定したが、脱炭素やDXといった社会変革に向け、2021年度から30兆円の研究開発投資を行う目標を揚げた。政府が国民の生活を支援するため一人あたり現金10万円に現金給付を決めた際にも振込までに時間がかかり、接触確認アプリ「COCOA(ココア)」に不具合がみつかるなど新型コロナ感染の感染拡大で日本のデジタル化や社会変革の遅れが浮き彫りになった。コロナ禍によりDXの変革は加速しているが、医療分野でもDXを推進する動きが活発になってきており、「医療のデジタル革命実現プロジェクト」が実施され、デジタル医療の導入は目覚ましい速度で進んできている。具体的には、オンラインによる診療やリハビリ、AIによる画像検査、内視鏡検査などにおける診断の支援、アプリによる病気の診断や治療(CureAPP SCニコチン依存症治療アプリや糖尿病を管理する治療用アプリ「BlueStar」など)、ロボットによる非接触コニュニケーション、手術支援ロボットを用いた遠隔治療、リハビリや介護、VRを用いた救急・手術の体験研修、ウエアラブルによる日常データの収集、さらには治療や検査等の膨大なデータを活用することによる最先端の創薬や治療、医療機器の研究開発などがある。AIが診断を支援し、ロボットで手術、病気はアプリで治療する時代がやってくるとも言われている。小型ウェアラブルデバイスや非接触型測定による生体情報を利用した認知症診断法が開発されており、画像認識とセンサー、通信を利用すれば、洗面所の前に立つだけで、表情や顔色、心音などで健康も診断してくれる時代がいずれ訪れる。将来地方の過疎化が進み、医師不足は必至でオンライン診療を後押しするとされ、ドローンを用いた血液や薬剤の配送なども一部の国では導入されてきている。テクノロジーの進歩のみが未来を明るくするといった意見もあるが、新しい技術の進歩に胸躍らされる。診療に役立つ技術は取り入れ、時代の流れに取り残されないようにしないといけない。

 現在、コロナ禍で不安感が高まる中、ワクチンの効果や治療薬の開発さらに画期的なデジタル革命による明るい社会への変革を希望に持ち、国民への新型コロナウイルスワクチン接種という国家プロジェクトの一翼を担い、コロナの終息に微力ながら尽力していきたいと考えている。

「倉敷医師会だより」令和3年6月号巻頭言より  

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