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末期腎不全に対する腎移植

[2024.04.07]

腎移植は末期腎不全の唯一の根治治療であり、透析による時間的制約や食事・水分制限から解放され、透析に伴う心血管合併症が防げ、透析医療で5年生存率が約50%に比し、腎移植は5年生存率、10年生存率はそれぞれ97%、95%と余命が長くなどのメリットがある。免疫抑制剤や移植医療の向上により、腎移植の成績は飛躍的に向上し、血縁のない間柄でも可能で、高齢者の腎移植も増加している。日本では国民皆保険制度があり、海外と比し透析医療レベルが高く、臓器移植提供者が少なく、透析医療を選ばれやすいと考えるが、医療経済的観点、長期予後から考えると透析医療から腎移植に切り替わることが望まれる。腎移植は生体腎移植が日本では9割を占め、心臓死または脳死判定された方からの献腎移植も可能であるが、献腎移植希望者数の登録者数は2023年末に14,330人で、実際に献腎移植を受けたのは248人のみでドナー不足は深刻である。

NHKによると日本人に臓器提供に慎重、あるいは否定的な意見が多いのかというとそうではなく、「自分が脳死または心停止し、死亡と判断された場合に臓器提供をしたいと思う」のは約4割存在し、臓器を提供したいという意思が十分に生かされていない。海外と比べ日本で臓器提供数が極めて少ない理由は、脳死の考え方や臓器移植に関する制度の違いとされる。多くの国では臓器提供とは無関係に脳死は“人の死“として認められるが、日本では臓器提供を前提とした場合に限り、脳死が”人の死“とされる。スペイン、フランス、イギリスなどは提供しない意思を示さない限り臓器提供の対象とし、米国では臓器提供の意思を示すことが多くの州において法律で決まっている。

日本では1997年に臓器移植法が出来て、脳死下の臓器移植については本人の書面による意思表示さらに家族の承諾が必要とされ、「臓器移植禁止法」と揶揄されるほどの厳格な条件から出発した。2008年臓器売買や渡航移植を禁止し、各国が臓器移植に関して「自給自足」を達成することを求めるイスタンブール宣言が出た後に法の見直しによって、2009年の法改正では主に同意条件が緩和され、本人の事前意思が不明の場合は、家族の承諾によって臓器提供が行うことが可能となり、15歳未満からの子供からの臓器提供も親の同意によって可能となった。しかし、臓器提供数は思う程に増えていないのが現状で、最近の臓器提供数で人口100万人あたり、米国では38.03人(年間約1万人)、韓国では9.22人、それに比べてわが国ではわずか0.62人と極端に少ない。

韓国は日本と同じ時期に臓器移植法が出来たが、法改正を行うことによって臓器移植を順調に増やしている。法改正の結果、1.最終的に同意条件は最終的に家族の1名以上に緩和、2.潜在的ドナーの発掘を行う「臓器提供者管理病院」として指定を受けた病院や脳死患者の発生を報告した病院の患者が優先的に腎移植を受けられる制度や臓器提供者の親族が優先的に臓器移植を受けられる制度などの臓器提供インセンティブ制度や葬送費用と診療費の支払いを行う経済的インセンティブ制度を導入、3.これまで臓器提供者管理病院に一任されていた潜在的ドナーの発掘や臓器の摘出を全国的に一元管理する「韓国臓器提供機構(KODA)」が発足し、病院で潜在的ドナーが発生した際にKODAへの連絡を義務化し、医療機関の長が届出をしない場合過料を科す、4.KODAの仕事として臓器移植コーディネーターの教育や医療機関対象の臓器提供向上プログラムの実施も行う、5.医療者に対して臓器移植や臓器提供に関する教育を行う義務が国や地方自治体に課すようなっている。本邦でも韓国の制度に倣うべきだという主張もある。

日本において臓器提供者拡大のためには、第一に早急にマスコミ等を通じて腎移植の正確な情報を広く普及、啓発すべきである。国民に腎移植に関する情報が周知されていないのが、腎移植が進まない理由とも思われ、腎移植のメリットを知った国民は自ずと腎移植を受けたいと思い、世の中が変革すると思われる。国民の間に「臓器提供を誇りに思う」気持ちが醸成されるような取組も重要である。

第二に、臓器提供の意思を公平・適切に汲み取ることができる仕組みの構築が大切で、マスコミなどから正確な情報を発信し、臓器提供の意思の表示をお願いし、マイナンバーカードや運転免許証を発行する際に臓器提供の意思表示を示すようなシステムへの変更や意思表示の義務化も求められる。

第三に、脳死患者からだけでなく死体腎からの提供を増やすべきであろう。脳死判定される患者は多くはなく、死体腎の中から一定の基準を満たす者だけ選んでも多くの末期腎不全の方に提供できると考える。

第四に、病院が心臓死ないし脳死判定される患者の中から臓器提供を発掘する行為が評価されるシステムが必要であろう。病院などで亡くなる方の中から一定の基準を満たす患者の中から臓器提供の意思の表明がある、もしくは意思表明がなくても家族の同意が得られるなど臓器提供の可能性のある患者の家族に臓器提供に関する情報提示がなされ、臓器移植ネットワークに届け出て、ドナー家族に対する専門的かつ継続的な支援体制を構築するという行為が評価されることにより、臓器提供が増加することが予想される。

第五に、臓器移植提供施設の整備及び連携体制の構築も必須である。

最後に、腎移植の待機患者は多く、さらに末期腎不全患者が代替治療に甘んじている状況から、近い将来腎移植を普通に選択できる世の中であることを願望し、韓国での取り組みなども踏まえた法改正等が行われ、腎移植が推進することが望まれる。幸いにも、岡山県には腎移植で日本においてトップクラスの実績をもつ岡山大学泌尿器科があり、教室のこれからの取り組み、ご活躍に期待したい。

岡山県医師会報 令和6年5月号「会員の声」より抜粋

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